この記事のポイント
- 手付が交付されると、買主は手付を放棄し、売主は倍額を現実に提供して契約を解除できます(民法第557条第1項)
- 解除できるのは、相手方が契約の履行に着手するまでです
- 手付金の上限が代金の20%になるのは、売主が宅地建物取引業者のときだけです
- 個人が売主の売買には、手付金の上限の定めも保全措置の義務もありません
- 売主が宅地建物取引業者の場合、未完成物件は代金の5%超か1,000万円超、完成物件は10%超か1,000万円超の手付金等で保全措置が要ります
自宅を売るとき、売買契約の場で買主から受け取るのが手付金です。いくら受け取るのか、受け取ったあとに契約をやめたくなったらどうなるのかは、民法と宅地建物取引業法が枠を決めています。
この記事では、手付金と解除の関係、代金の20%という上限がかかる場面、解除できる期限、違約金との違い、保全措置が要る金額、契約前に説明される事項を、条文にもとづいて整理します。
不動産売買の手付金とは
手付金は、売買契約を結ぶときに買主が売主へ交付する金銭です。民法第557条第1項は、手付が交付されたときに当事者が持つ解除権を定めています。
解除されないまま引渡しまで進んだ場合、手付金は売買代金に充当されます。宅地建物取引業法第41条第1項も、手付金等を「代金に充当されるもの」と定義しています。
手付金の上限は代金の20%:売主が個人なら適用外
宅地建物取引業法第39条第1項は、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買について、代金の10分の2を超える額の手付を受領できないと定めています。同条第2項により、受領した手付はその性質にかかわらず解約手付として扱われます。
| 売主 | 買主 | 手付の20%上限 | 手付金等の保全措置 |
|---|---|---|---|
| 宅地建物取引業者 | 一般の個人 | あり(第39条) | あり(第41条・第41条の2) |
| 一般の個人 | 一般の個人 | なし | なし |
| 宅地建物取引業者 | 宅地建物取引業者 | なし(第78条第2項) | なし(第78条第2項) |
第78条第2項は、第37条の2から第43条までの規定を宅地建物取引業者相互間の取引に適用しないと定めています。個人が売主の中古住宅を仲介で売る取引では、手付金の額に法律上の上限はなく、当事者の取り決めで決まります。
手付解除ができる期限は履行の着手まで
手付による解除には期限があります。民法第557条第1項ただし書は、相手方が契約の履行に着手した後は解除できないと定めています。宅地建物取引業法第39条第2項のただし書も同じ内容です。
手付解除では、解除した側に損害賠償を求められません。民法第557条第2項が、解除権の行使は損害賠償の請求を妨げないとする第545条第4項を適用しないと定めているためです。売主が宅地建物取引業者の場合、これらに反する特約で買主に不利なものは無効になります(第39条第3項)。
手付解除と違約解除の違い
契約をやめる場面には、手付による解除のほかに、相手方が約束を果たさないことを理由とする解除があります。どちらに当たるかで、負担する金額の決まり方が変わります。
| 比べる点 | 手付解除 | 債務不履行による解除 |
|---|---|---|
| 根拠 | 民法第557条第1項 | 契約上の債務の不履行 |
| できる時期 | 相手方が履行に着手するまで | 相手方が債務を履行しないとき |
| 買主の負担 | 交付した手付の放棄 | 契約で定めた違約金 |
| 売主の負担 | 手付の倍額の現実の提供 | 契約で定めた違約金 |
| 損害賠償 | 請求できない(第557条第2項) | 予定額の定めに従う |
宅地建物取引業法第38条は、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買で、損害賠償の予定額と違約金を合算した額が代金の10分の2を超える定めを禁じています。超える部分は無効です(同条第2項)。
引渡し後に見つかった不具合の責任は、これらとは別の話です。「契約不適合責任とは」で説明しています。
手付金等の保全措置が必要になる金額
売主が宅地建物取引業者の場合、一定額を超える手付金等を受け取るには保全措置が要ります。手付金等とは、契約の締結日以後、引渡し前に支払われ代金に充当される金銭です(第41条第1項)。
| 物件 | 根拠 | 保全措置が不要な範囲 |
|---|---|---|
| 工事の完了前(未完成) | 第41条第1項ただし書 | 代金の5%以下、かつ1,000万円以下 |
| 工事の完了後(完成済み) | 第41条の2第1項ただし書 | 代金の10%以下、かつ1,000万円以下 |
1,000万円という額は宅地建物取引業法施行令第3条の5で定められています。買主への所有権移転の登記がされたとき、買主が所有権の登記をしたときも、保全措置は不要です。
保全の方法は条文に挙げられています。未完成物件は銀行等との保証委託契約か、保険事業者との保証保険契約です(第41条第1項各号)。完成物件では、これらに加えて、国土交通大臣が指定する者への寄託と質権設定という方法が使えます(第41条の2第1項各号)。措置が講じられないとき、買主は手付金等を支払わないことができます(第41条第4項・第41条の2第5項)。
契約前の重要事項説明で確かめる5つの点
手付金と解除に関わる事項は、契約を結ぶ前の重要事項説明で説明されます。宅地建物取引業法第35条第1項が挙げる説明事項のうち、金銭の行方に関わるものは次の5つです。
- 第八号:契約の解除に関する事項
- 第九号:損害賠償額の予定または違約金に関する事項
- 第十号:手付金等の保全措置の概要
- 第十一号:支払金または預り金の保全措置を講ずるかどうかと、その概要
- 第十二号:代金に関する金銭の貸借のあっせんの内容と、貸借が成立しないときの措置
第十二号は住宅ローンに関する事項です。買主の融資が下りなかったときに契約がどうなるかは、契約書の特約の内容で決まるため、期限と条件を説明の場で確かめます。
まとめ:手付金は額の上限と解除の期限で見る
- 買主は手付の放棄、売主は倍額の現実の提供で解除できる(民法第557条第1項)
- 解除できるのは相手方が契約の履行に着手するまで
- 代金の20%という手付の上限は、売主が宅地建物取引業者のときの規定
- 損害賠償の予定額と違約金の合算も、同じ場面で代金の20%まで
- 売主が宅地建物取引業者の場合、未完成物件は代金の5%超または1,000万円超で保全措置が要る(完成物件は10%超または1,000万円超)
売買契約の日程が決まったら、手付金の額、いつまで手付解除ができるか、違約金をいくらと定めるかを契約書の条項で確かめます。ローンの特約がある場合は、その期限もあわせて読んでおきます。売却全体の流れは「マンション査定の方法と流れ」にまとめています。
参考にした資料
- 民法 第545条(解除の効果)、第557条(手付)(e-Gov 法令検索)
- 宅地建物取引業法 第35条、第37条の2、第38条、第39条、第41条、第41条の2、第78条(e-Gov 法令検索)
- 宅地建物取引業法施行令 第3条の5(e-Gov 法令検索)
- 国税庁 タックスアンサー No.7125「営業に関しない受取書」
※ 2026年9月16日に確認した条文にもとづく一般的な説明です。個別の契約の解釈は宅地建物取引士や弁護士にご確認ください。
よくある質問
- Q売主が個人の場合でも手付金に上限はありますか?
- A宅地建物取引業法第39条は、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買に適用される規定です。個人が売主で不動産会社が仲介する取引には適用されず、手付金の額に法律上の上限はありません。額と解除の期限は契約書の定めによります。
- Q住宅ローンの審査が通らなかったとき、手付金は戻りますか?
- A戻るかどうかは契約書の特約の内容で決まります。金銭の貸借のあっせんが成立しないときの措置は、宅地建物取引業法第35条第1項第十二号の説明事項です。特約の対象になる金融機関、申込みの期限、解除できる期限を契約前に確かめます。
- Q事務所以外の場所で申し込んだ場合、撤回できますか?
- A売主が宅地建物取引業者で、その事務所等以外の場所で買受けの申込みをした場合は、書面で撤回できます(第37条の2)。撤回できる旨を告げられた日から起算して8日を経過したとき、または引渡しを受けて代金の全部を支払ったときは、撤回できません。撤回に伴う損害賠償や違約金は請求されず、受領された手付金その他の金銭は速やかに返還されます。
- Q手付金の領収書に収入印紙は要りますか?
- A個人が自宅を売って受け取る領収書は、国税庁のタックスアンサー No.7125 にある「営業に関しない受取書」に当たり、印紙税はかかりません。不動産業を営む法人など、営業に関する受取書は受取金額が5万円以上で課税対象です。
サムネイルのイラストは AI で生成したイメージです







